【ピレリ:ライダーインプレッション】Unbound Gravelに向けて。Cinturato™ Gravelシリーズ徹底分析。
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自分に合うグラベルタイヤはどれか
PIRELLIオフロードタイヤサポートライダーの小森亮平選手。
今年度から新体制を発表し、自身のコーチングサービスをチーム名として積極的にオフロード系のレースにも参戦する。
2023年6月5日に開催された世界最高峰のグラベルレース「Unbound Gravel(アンバウンドグラベル)」の日本人初の200マイル プロクラスへの参戦に向けて、小森選手は事前にグラベルタイヤの感触を掴むために徹底的に走り込みテストしていた。
そのレポートが届いたので紹介しよう。なお、大会のレポートも後日掲載を予定している。
テストライダープロフィール
PIRELLIオフロードタイヤサポートライダー
小森亮平
マトリックスパワータグ所属。全日本ロードU23での優勝やU23世界選手権、パリ・ルーべ等に出場。ロードに限らずMTB、シクロクロス、グラベルのレースにも参戦。PIRELLIはオフロードカテゴリーのタイヤをサポートしている。
立命館大学自転車競技部コーチ、NSCA認定パーソナルトレーナー、JCTAサイクリングツアーガイドなど幅広い方面で活躍中。
テストタイヤ
今回のテストには3種類のタイヤを用意した。
PIRELLIのCinturato™ Gravelシリーズが登場した時から存在し、絶大な人気を誇っているCinturato™ Gravel H(以下Hと記載)とCinturato™ Gravel M(以下Mと記載)の2モデルと、ワールドカップレーサーの意見を取り入れたトレッドパターンが特徴のCinturato™ Gravel RC(以下RCと記載)だ。
なお今回は全て700x40Cサイズを使用している。
Cinturato™ Gravel H (Hard terrain)
ロープロファイルでコンパクトなトレッドを備え、ハードパックな路面からある程度の砂利道や、舗装路まで対応。
グラベルタイヤ用に開発されたSpeedGRIPコンパウンドを採用し、オンロードとオフロードの両方で低い転がり抵抗と優れた耐久性、ウェットグリップを兼ね備える。
タイヤ全体を120tpi生地の保護層が覆い強度を高めたケーシングを採用。
Cinturato™ Gravel M (Mixed terrain)
あらゆる路面コンディションがミックスされた、過酷な荒れたコースに対応するミドルプロファイルのタイヤ。
使用されているコンパウンドやケーシングの構造はHと同様。
Cinturato™ Gravel RC (Racing Competition)
グラベルレースで要求されるあらゆる性能を追求したタイヤ。MTBレーシングモデルのSCORPION™ XC RCを派生させて生まれた特別な設計を採用。
プロアスリートのフィードバックに基づきストレートスピードの向上とコーナーグリップの増強を実現。
各モデルについて製品ページで詳しく紹介しているので、そちらも併せて確認して欲しい。
テスト環境 / 使用機材
テストに選んだコースは舗装路と未舗装路が半分ずつ。舗装路はアスファルトとコンクリートの路面。未舗装路は砂利、ウッドチップ、落ち葉、濡れた石、柔らかい土など、可能な限り様々な地面で試した。
ホイールはリム内幅19mm、シーラントはPIRELLI純正のScorpion™ SmartSEALを使用し、空気圧を2.0~3.0barまで0.2bar刻みで細かく変更していった。
バイクはCannondale SuperSIX EVO SE/CX。ライダーの体重は70kgという条件だ。
詳しい機材の紹介が小森選手のYoutubeチャンネルに投稿されているので観てみてはいかがだろうか。(動画リンク)
実走インプレッション
各モデルに共通の印象
他メーカーのタイヤと比較することはできないが、どのモデルも表面のコンパウンドは思ったよりも柔らかめで、アスファルトをガンガン走っていると摩耗してくるのが早いかなと思った。ただ、そのおかげで低いブロックパターンで路面抵抗を減らしつつ、オフロードでちゃんとグリップするというバランスを生み出せているのだと分かった。
タイヤ全体の剛性はしっかりしていて、基本的にどんな空気圧に設定していても問題無く走れるが、各モデルで使用感が異なるのでその辺りを詳しくレポートしていく。
Cinturato™ Gravel RC
今回試した中で最もオールラウンドなモデルだと感じた。舗装路の上では軽く転がり、未舗装路に入れば申し分無いグリップを発揮する、一番オールラウンドなタイヤだと思う。
舗装路を走っている時は、ノブが低いのでダンシングでもシッティングでもヨレが少なく扱いやすい。荒れた路面もセンターのノブが振動を吸収してくれているのかかなり楽。ただ、コーナーでバイクを倒し過ぎると、高めのサイドノブに荷重が乗ってしまい少しふらつく場面もあったので、攻め過ぎは禁物かなと思った。
未舗装路を走っているときは、基本的には、なるべく低圧にして面で路面を捉えつつ、コーナーではしっかりバイクを寝かせてサイドに仕事させればグリップしてくれる感じで、タイヤの紹介通りだが、MTB用のScorpion™ XC RCをグラベル用に持ってきた感じがした。
Cinturato™ Gravel M
まず驚いたのは、意外なほどの転がりの軽さ。ノブが高いのでもっと重厚な乗り味かと思っていたが、真っ直ぐ一定でタイヤが転がっている限りはかなり軽く進んでくれる。直線でペダリングもしないような下りだとRCよりも軽いかもしれないくらいだ。
ただ、ノブが高くてヨレやすいこととタイヤ自体の重量のせいで、ダンシングするときや上りで踏んでいるときは重さを感じるし、舗装路の高速コーナリング中はブロックがヨレているのを強く感じる。
未舗装路では、真っ直ぐ上っている時はRCと比べると、硬めの路面では同等か少し劣る程度、柔らかくてノブがちゃんと刺さるような路面ではRCよりもよくグリップした。そして、ブレーキングやコーナリング時はかなりグリップ力が高くて安心して走ることができた。
真っ直ぐ走っていると、タイヤセンターの連続した部分がメインで接することになるので、硬めの路面だと意外とグリップしなかった。正直、空気圧の設定を高めにしているとドライの固い路面ではあまりグリップはよくない。だが、少しでもふかふかの腐葉土のようなところに入るとこのモデルが一番良かった。
Cinturato™ Gravel H
ブロックパターンからの想像通り、舗装路では最も軽く走った。そして、未舗装路でも意外なほどグリップしてくれた。しかし、他のモデルと同じコンパウンドを使用しているので、タイヤセンターの浅い溝のようなパターンはすぐに摩耗して無くなってしまうかもしれない。
未舗装路での絶対的なグリップは他のモデルに比べると劣るが、滑り過ぎて走れないというほどではなく、濡れた岩の上などではこちらの方がグリップするくらいだった。走るフィールドの舗装率が高く、荒れた舗装路や平坦基調の未舗装路がメインなら、このタイヤが癖が少なめで一番使いやすいと思う。
空気圧を高めに入れると舗装路ではかなり軽快になるが、反面未舗装路でマッドな区間だと扱いにくくなるので、最適な空気圧を見つける必要がある。
固い土の上に落ち葉が少し乗っているような状態だと、RCか、もっと落ち葉の層が厚いとMが一番良い。Hで高速で走ると少し怖いが、低圧に落としてのんびり走っている分には何の問題も無く走れる。
最適な空気圧は、体重70kgで積載物が無ければ、シングルトラックで2.0から2.2barが良い感じだった。
Hが最も適しているのはアスファルトやコンクリートがメインで表面が少し荒れているようなところ。かなり安心感がある。RCやMでも良いが、少しオーバースペック気味かと思った。
空気圧は、2.7-3.0barくらいまで入れてしまっても硬さが出なかったので、舗装路は高めの空気圧でアプローチして、荒れた路面の区間だけ2.5bar程度まで落として走るのが快適だった。
総評
モデル間の比較
3つのモデルの使用感を舗装路・未舗装路それぞれ5つの項目に分けて評価してみた。
結果は以下の通り。タイヤ選びの参考にして欲しい。
直線での軽快感(シッティング) | H>RC≧M |
直線での軽快感(ダンシング) | H>RC>M |
安定感(直進) | H>RC=M |
安定感(コーナー) | H>RC>M |
振動吸収性 | RC≧H>M |
加速時のグリップ | RC≧M>H |
コーナーリンググリップ | M≧RC>H |
振動吸収性 | RC≧M=H |
全体的な扱いやすさ(ドライ) | RC≧M>H |
全体的な扱いやすさ(ウェット) | M>RC>H |
各モデルにおすすめの用途
Cinturato™ Gravel RC
RCという名前の通りレース、そしてそれに限らず幅広い用途で使えそう。グラベル率がライド全体の30%以上で、よほどのウェットでなければ基本的にこれで走れると思う。
Cinturato™ Gravel M
路面がマッドならこれを使う。今回は試していないが、Cinturato™ Gravelのラインナップ中で最も柔らかい路面向けのSまで必要な場面はなかなかないと思うので、雨のレースを想定して保険で1セット持っておきたいというようなタイヤ。グラベル率が60%以上で腐葉土や緩めの路面が多いなら普段使いからこれでも良いかもしれない。
舗装路が多いとコーナーでのグリップが抜けそうで少し辛いので、未舗装路メインなら選びたいタイヤだ。
Cinturato™ Gravel H
舗装路率が高めなライドや、オフロードでも北海道のような平坦基調のライドならコレ。
グラベルまでのアプローチ時間が長かったり、オフロードというよりも、舗装路だけどロードタイヤでは不安といった場面でも気にせず突っ込んでいけるので、速さを競わない舗装路メインのサイクリングに最も適していると思う。
オフロードでもそれなりにグリップしてくれるので平坦基調ならこれで十分なくらい。流石にテクニカルな急な下りのシングルトラック等はフロントのグリップが足りなくて辛いので、そういった場面を想定しているならRCかMをフロントタイヤに選んで、リアはHという選択肢もあり得るかもしれない。
編集:阪井洸仁